『  楽しき日々  ― (2) ―  

 

 

 

 

 

 

 

 

  きゅ きゅ きゅ ・・・ 布が動くたびに光が虹色に散った。

 

ジョーはさきほどから丁寧に拭いている窓ガラスを ちょっと身体を引いて眺めた。

「 ふう 〜〜 ・・・ こんなもんかな〜〜〜 

 ここは朝いちばんの光が入る方角だから ぴかぴかがいいな〜〜〜 

 でも この部屋 ベッドとドレッサーと衣装ケースで満杯だなあ ・・ 」

彼は段ボールだらけの部屋を振り返った。

キレイさっぱり掃除され 壁も明るいクリーム色に塗り替えてあるけれど。

 

  ― やっぱり狭いよなあ ・・・

 

彼は 雑巾を持ったままこっそりため息とついた。

「 ・・・ ウチにはちゃんと! 南向きの広い部屋があるのに ・・・

 あの部屋 お気に入りだっていったじゃないか ・・・

 荷物持ちでついていってさんざん迷って選んだカーテンもさあ あの色、 

 ぼく 好きなんだ。  ベッド・カバーだってフランが一生懸命作って ・・・

 なんだっけか・・・ ほら いろんなちっこい布のつぎはぎの〜 ・・・ 

 なんていうんだっけ??  でも あれ、さ。 好きだよ ぼく。 

 ・・・ あの部屋 きみの部屋 ぼくだってお気に入りなんだぜ  

 庭の花壇だって ・・・ きみがいろいろ苗や球根を植えたり 種を撒いてさ・・・

 いっつもなんかの花が咲いてるじゃないか ・・・

 博士だってお気に入りだよ?  庭を散策するのが 発想を磨く一番の方法だって

 言ってるもんな〜  ・・・ ぼく 一人でどうやって手入れ するんだよ〜〜 

 

  ドンッ !  入口で大きな音がした。

 

「 ??? な なに?? 」

「 あ〜〜 ジョー・・・ この荷物も この部屋にいれるの。 隅っこに置いておいて

 くれる?  

エプロン姿のフランソワーズはにこやかに宣う。

「 え いいけど ・・・ う〜わ ・・・重 〜〜〜  これ なに??? 」

「 これ? ああ いろいろ・・・CD とか 本 とか よ。 」

「 こんなに本とか あった? きみの部屋にさ 」

「 ええ。 クロゼットの奥に置いていただけ。 ここでは ほら・・・ 

 収納場所、ないでしょ〜〜 うふふふ ・・・ やっぱ狭いわね〜〜

 わたし 荷物の間に寝るコトになりそう〜〜〜 」

彼女はけらけら・・・笑う。  楽しそうに あっけらかんと 笑う。

 

   ・・・ !  ぼくが こんなに心配しているのに ・・・

 

ジョーはなぜかやり場のない怒り、 いや 悲憤にも似た気持ちを 押さえることが

できなくなってしまった。

「  ― なら  引っ越さなければいいじゃないか 

「 え ・・・? 

一瞬 ― 二人の間の空気が 固まった。

「 ジョー ・・・ 本気で言ってるの 

「 う ・・・ うう ん ・・・ けど けどね!

 きみのこと、ほっんと〜〜に心配してるって わかって欲しいんだ 

「 ・・・ ありがと ジョー。 ホントにとっても感謝しているわ 」

「 感謝 ? 」

「 勿論 あ い し て る わ♪

 ジョーのこと 愛してるから ―  独り暮らしを始めたの わたし。 」

「 は??  ・・・ あ あの ・・・ 遊びにきても  いいのかな ・・・ 」

「 うふふ〜〜 わたしの方で お家に帰ります。 

 えっと ・・? そうよ < 実家に帰らせていただきます > でしょ? 」

「 そ それは ちょっと意味が違うと思うよ〜 」

「 そう? 使い方が違うのかしら ・・・・ ま いいわ。 使う時に考えるから・・・ 

それよか ねえ ねえ〜〜 キッチンの方、 一緒に片して〜〜 」

「  ― わかった ・・・ よ 

「 お願いします〜〜 」

ジョーは ちょっとばかりよろよろしつつキッチンのある部屋に出ていった。

「 ふふふ・・・ せま〜〜い ・・・けど 楽しそう♪ 

 えっと・・・ ベッドの下には収納ケース でしょう? 軽いモノは天井から

 下げるし ・・・ 壁にもいろいろ ・・・ えっと穴 開けちゃダメなのよね 」

フランソワーズは楽し気に ベッド・ルームにする部屋の中をあれこれセットし始めた。

「 フラン〜〜〜〜 ・・・・?  キッチンのモノって・・・これで全部? 」

「 え? なに〜〜 ジョー 」

「 だから ・・・ キッチン用品の段ボールって他にも置いてあるんだろ? 」

「 え?? こっちにはないわよ〜 」

「 ・・・ あれえ ・・・ それじゃ積み残しかなあ ・・・

 これだけ・・・ってこと ないだろ? 」

キッチンの方から ジョーがぼそぼそ言っている。

「 なに〜〜 ジョー。 よく聞こえない〜〜〜 」

「 あの〜〜〜 ・・・ ちょっと来てくれよぉ〜 」

「 なあに〜〜  キッチン用品なんてそんなにないでしょう? 」

「 ・・・ けど ・・・ 

「 わかったわよぉ 今 行くわ。 えっと・・・ランジェリーはこの引き出しね〜

 ベッドサイドでいいわね〜 っと  

「 ・・・ フラン 〜〜〜 

「 はいはい ・・・ もう・・・ フライ・パン と お鍋 と ポットと・・・

 あと 食器もちょっぴりなのに ・・・ 今 行くわ〜 」

「 頼むぅ 〜〜〜 」

よいしょ・・・っと。  彼女は段ボール中から立ち上がった。

 

 

  カチャン カチャ。  トン。

 

「 はい これでお終いね〜〜 」

フランソワーズは引き出しを静かに閉めた。

「 ・・・ ねえ これっきり???  ホントに?? 」

ジョーは キッチンとダイニングとを兼ねた狭い空間で ぼ〜〜っとしている。

「 ええ そうよ。 」

「 たったこれだけで ・・・ ご飯、食べられるの きみ。 」

「 フライパンとお鍋、ポットがあればとりあえず何とかなるわ  」

「 あ! カップ麺とかばっかりで済ませるつもりかい?? ダメだよ〜〜 そんなの! 

身体に悪いよ! ちゃんと栄養のある食事 しなくちゃ 」

「 失礼ねえ〜〜 ジョーじゃあるまいし。 ちゃんとお料理しますよ?

 もっとも ・・・ チン! に頼ることになるかも〜〜 」

フランソワーズは 真新しい小型の電子レンジをきゅ きゅ・・と布で拭った。

「 ・・・ う〜〜 それにさ! お皿とかも これっぽっち?? 」

「 ねえ ジョー。 わたし 一人暮らしするのよ?

 ディナーセットは必要ないでしょう? 」

「 ・・・ けど。 お皿もカップも ・・・ 一つ だけ? 」

「 必要なら < ウチ > からもってくるわ。 バスですぐですもの。 」

「 ・・・ 夜にお皿をとりに来るわけ? 」

「 あら。 夜にそんな人が来てもいいわけ? 」

「 ― ・・・・ だめ! 」

「 うふふ・・・ 冗談よ。 そんなこと しません。

 あ でも ね。  ジョーは遊びにきてね♪  ご飯 作るから! 

「 ・・・う  うん ・・・ 」

ジョーは コンパクトで便利そう・・・だけど いかにもいかにも狭い室内を

心配そう〜〜〜に見回している。

 

「 アルヌールさ〜〜ん ? いらっしゃいますかあ〜 」

ドンドン ・・・  玄関のドアを叩く音がする。

「 ? 誰?? なんでチャイム 鳴らさないんだろ? 」

ジョーが中腰になりつつ 真剣な表情をした。

「 ああ  このアパートの大家さんよ。 管理人も兼ねてね〜 101号室に

 住んでいるの。  は〜〜〜い  いますよ〜〜 」

フランソワーズは 段ボールをひょい ひょい 飛び越して玄関に行った。

「 ・・・ うわっち ・・・ 」

ジョーは慌てて彼女の後を追ったが 見事に段ボールをヒットした・・・

「 お待たせしました〜  こんにちは〜 

「 こんにちは、アルヌールさん。 お荷物は片付きましたかあ 

「 ええ なんとか ・・・ まだ 段ボールだらけですけど  

「 頑張ってね〜  あら? 」

大家さんが フランソワーズの後ろにいるジョーの姿を捕えた。

「 ・・・ あ ども。 

ジョーは先に声をかけ ぺこん、とアタマを下げた。

「 ・・・  あ〜 弟さん ? 」

「 あ は はい〜〜〜 ふつつ〜〜な弟で 」

「 それを言うなら ふつつかな だよ! 

後ろから ジョーがぼそぼそ・・・呟く。

「 うふふふ〜〜〜 楽しいごきょうだいね〜〜〜 」

「 ええ 愉快な子で ・・・ どうぞよろしくお願します 」

 

≪ ちょ ちょっと! ぼく、 弟さん なわけ? ≫

≪ 正解〜〜〜  だってここ! 女子専用のアパートなのよ ≫

≪ けど! ぼく 遊びに来たいんだけど ・・・・ ≫

≪ ともかく、 ここは いいコな弟 でいてちょうだい。 ≫

≪ へ〜〜〜い お姉ちゃん ≫ 

 

 ・・・ そんな < 会話 > が 密かに飛び交っている ・・・なとど

知る由もなく ― 大家さんはやたらにこやかである。

「 ま〜 ま〜 立派な弟さんね〜〜 お姉さんも安心ね〜〜 

「 ええ も〜〜〜 頼もしい弟で ・・・・ 」

< お姉さん > も にっこり♪ 余裕の笑みを返す。 

「 コズミ先生とね〜 アナタのお父様からけっこうなモノを頂きまして・・・

 どうぞ ゆ〜〜〜っくり寛いでね 弟くん? 

 お姉さんは しっかりお護りしますからね〜〜〜 」

「 ・・・ は  はい ・・・ 」

じゃあ また〜〜 ・・・ と 大家サンはにこやか〜〜な顔で帰っていった。

 

 

「  ― なあ 」

大家サンの足音が 完全に聞こえなくなったのを確認すると ジョーは

大真面目な顔でフランソワーズに向き直った。

「 ぼく ― きみにとっては 弟 なのかな。 」

「 さ〜〜 お茶でも淹れましょうか   え  なあに? 」

「 だから。 ぼくは!  

「 え〜〜? ジョーは わたしの大事なヒト よ♪ わかってるでしょう? 」

「 ・・・ 大事な弟? 」

「 ま〜〜 いや〜ね〜〜〜 大切な恋しい人 ♪ 

 お茶〜〜 淹れるわ〜〜  わたしのお部屋に遊びにきてくれた

最初の大切なヒト ですからね 」

「 だ 〜から〜〜 」

「 えっと・・・ ああ このカップ、ジョーのカップにしましょ。

 グレートがね〜〜 早めの引っ越し祝い〜〜って 最高級の茶葉を送って

 くれたのよ 楽しみね 」

「 ・・・ う  ん ・・・ 」

ジョーは 不承不承頷いた。

 

 

 コツ コツ コツ ・・・・

 

ほとんど車も通らない道を 青年がひとりのんびり歩いている。

ところどころに立っている街灯が 彼のセピアの髪をぼんやり照らす。

「 ・・・ なんだってあんな ・・・ 狭い部屋にさ 」

周囲にだ〜〜れもいないのを幸いに 彼はかなりはっきりと < 独り言 > を

言っている。

「 別にさ〜〜 ウチにいたって全然いいじゃん?  ウチの部屋は広いし〜

 キッチンだって最新家電でぴっかぴか じゃないか〜〜〜

 あのアパートのキッチン!  ちっこいシンクとガス台 二つ なんて・・・

 ロクな料理、できないぜ? 冷蔵庫だって あ〜〜んなちっこいの〜〜〜 」

 

 コツ コツ コツ ・・・ 他に通る人のいない道に彼の靴音が響く。

 ザ −−−−−  クルマの音が近づいてきた。

 

「 ・・・・ 

ジョーはすこしガードレール側に寄って クルマをやり過ごした。

次の角を曲がれば海が見える。 そしてちょいと首を伸ばせば ジョーの家 の灯が

認められるのだ。

だから この角が大好きだ。  ジョーは毎日 この角を曲がる度にほんのり・・・

心に温かい想いを点じている。

 

    えへへ  ぼくの家 だ♪

    玄関を開ければ ぼくだけを待っててくれる家族がいるんだ

 

そんな想いが 彼の足取りをさらに軽くしていたので あるが。

 

「 ・・・ あ〜あ ・・・・ なんか ちょっと。 気が抜けた ・・・ 」

大好きなはずの ウチ が ・・・ ほんのちょっとだけつまらなく感じるのだった。

「 ふう ・・・ この道、結構遠いんだなあ 〜 

 

 夜空を眺めれば 満天の星 ・・・

 

    こんな空 ・・・ みせてあげたかった  な ・・・

    ・・・ そうだね 一緒に見た空は キレイな月夜だった ・・・

 

あの女性 ( ひと ) の面影が 星々の間に浮かんだ。

濃い藍色の空に淋しい微笑が 滲んで消えていった・・・

  ふう ・・・  ジョーは立ち止まり暮れなずむ空を そのさらに上へと視線を

投げるのだった。

 

「 いっけね ・・・ 帰って博士にフランの部屋のこととかしっかり報告しなくちゃ。

 あ 博士〜〜〜 ちゃんと夕食 食べたかなあ  」

 

ぷるん、と顔を振ると彼は岬の家に向かって足をはやめるのだった。

 

 

 

「 博士〜〜 コズミ先生のトコと図書館、イッテキマス。  

 あ 帰りに フランソワーズのトコにも寄ってきます 」

玄関で ジョーが声を張り上げている。

「 おお ・・・ そうだ これを持っていっておくれ。 

 昨日 コズミ君から到来ものじゃ、ともらったチョコレートなんじゃが・・・ 

「 わあ きっと喜びますよ〜〜 」

「 ふむ ふむ ・・・ それで 彼女、いろいろ不自由しておらんかね  」

「 さあ ・・・ なんか楽しそうにやってるみたいですよ ? 」

「 そうか そうか ・・・ ま 飽きるまでやってみるといいさ 」

「 でも ですね〜 やっぱりオンナノコの一人暮らしって 危険・・・ 」

「 ジョーよ?  彼女は 」

「 ですけど。 やっぱ女子なんですから〜〜 ぼく、戻ってくるように説得します!」

「 う〜〜ん ・・??  まあ オマエが試みるのは自由じゃが・・・

 成功率はちょいと ・・・ 」

「 ぼく! ガンバリます!  フランだってホントは淋しいと思います!

 ウチに帰りたいな〜〜〜って思っているに決まっています! 

「 ・・・ まあ ・・・ ガンバリたまえ。 健闘を祈る 

「 はいっ! 

やたら元気に出かけてゆくジョーの後ろ姿を 博士は面白そう〜に見送った。

 

    ・・・ まだちょっと無理だなあ ・・・

    フランソワーズは 今 独り暮らしを満喫している最中だろうよ

 

    ははは ・・・ まあ せいぜい頑張れよ ジョー

 

 

 ―  その日の午後

 

海岸通りからそんなに遠くはない住宅街のアパートの前に ジョーは立っていた。

「 え〜っと ・・・ この時間ならもう帰ってるよな〜〜

 あ 買い物とか行ってるかも ・・ ま いっか〜〜 」

彼は エントランス前にあるオート・ロック用のモニタに近づいた。

「 え・・・っと? 303号室〜〜っと ・・・ ぴんぽ〜〜〜ん☆  

そっと画面をタッチし ― しゃきっと姿勢を伸ばした。

「 ・・・・? あれ ・・・ いないのかな〜〜 

 も いっかい押して出なかったら ・・・ 電話しよ♪ 

 

  たっち。  ―  画面はなかなか変化しない。

 

「 ・・・ あ〜〜 やっぱいないのかあ・・ 先に電話しとけばよかった 〜 」

ちょっとがっかりしたけど、ま しょ〜がないや・・・と 彼はモニタから離れた。

「 じゃ ・・・ メールしよっと。  え〜と ・・・ 」

短文を送って 彼はアパートを出た。

 

「 ふ〜〜〜 ・・・ ああ いい天気だな〜〜こんな日に海もいいなあ〜〜 」

ふっと気が向いて 彼は公道から逸れ海岸への小路にでようと 草ぼうぼうの斜面を

降り始めた。

 

「 ジョー 〜〜〜〜〜〜 ! 」

 

大好きな声が 彼の背中を追ってきた。

「 !  あ〜〜 フラン〜〜〜〜 」

ぱっと振り向けば 上の道からフランソワーズが手を振って駆け降りてくる。

「 フラン〜〜〜 メール みてくれたのかい  今 帰ってきた? 」

ジョーは立ち止まり、手を振り返す。

「 ジョー 〜〜〜 !!  待ってぇ〜〜〜 」

「 フラン〜〜〜 」

た た た ・・・ 軽い足取りで金髪を靡かせ 彼女はやってくる。

 

   う わ ♪ かっわいい〜〜〜〜〜〜♪♪ 

 

彼は眩しいフリをし、目を細めていたがホントはじ〜〜〜っと彼女を見つめていたのだ。

「 ふううう〜〜  ああ やっと追いついたわあ〜〜〜  」

 はあ 〜〜〜 っと彼女は大息をついている。

「 ちゃんと待ってるってば。 安心しろよ 」

「 うふふ・・・ わかってるけ ど ・・・ え〜い! 」

「 ? う うわぉ〜〜 ! 」

立ち止まっている彼へ 彼女ぽ〜〜んと抱き付いて ― というよりは

走ったまま飛び込んできた。

「 きゃ〜〜〜 受け止めてぇ〜〜 

「 わわわ ・・・ うぉ 〜〜〜う ! 」

 

   どうん ・・・ !    きゃはは  あははは・・・

 

彼女を受け止め ― 彼はそのまま草の中に尻もちをついた。

 あははは   うふふふ ・・・ 抱き合ったまま二人は笑い転げた。

「 ・・・ だ だいじょ〜〜ぶぅ???  ジョー 〜〜 」

「 うお〜〜  死にそうだあ〜〜〜 」

「 うっそ ♪ 」 

「 ホントだってば〜〜 ・・・ フラン〜〜 重いってば〜〜 

「 うっそ! わたしなんか小指で持ち上げられるでしょう〜〜〜 」

「 もう〜〜〜 いきなり飛び付いてくるんだもの ・・・

 いっくらぼくだって そりゃ尻もちくらいつくさ 」

「 それも うっそ〜〜 わざと でしょう ? 

くすくす笑いつつ 彼女は彼の腕から抜け出した。

「 うふふ・・・ あ〜〜〜 ここ気持ちいいわ〜〜 いい匂い・・・

 これ ・・・ 草の匂いかしら 」

「 うん? ・・・ うん そろそろ枯れ草も混じってきてるからかな〜

 なんだか香ばしいというか ・・・ うん いい匂いだね 」

「 ほうら 起きて? 」

「 起きれない・・・・ 」

「 もう〜〜〜 ほら! 」

よいしょ ・・・ 彼女は彼の手をひっぱった。

「 おも〜〜い〜〜〜 ジョーこそ 重いってば 」

「 あははは ・・・・ でもホント、ここ気持ちいいね 」

「 そうね ・・・ ああ 空がキレイ ・・・ 」

身体を起こした彼の側に 彼女もぽすん、と腰をおろす。

 

  さわ さわ   さわ ・・・ そろそろ夕方の風がぼうぼうの草を揺する。

 

「 ああ ・・・ 今日は夕焼けがキレイかもな〜〜 

「 そう ・・・? 」

「 ウン。  あ さっききみの部屋に行ったんだけど ・・・ いなかったから

 メールしたんだ 

「 ― 知ってるわ。 」

「 え?? 」

「 ジョーが来たの、知ってるわ。 」

「 ?? どういうことかい 」

「 ジョーがインターフォンならしたとき、 わたし 部屋に居たもの。 」

「 え ・・??   あ シャワーでも浴びてた? 」

「 ううん 」

「 じゃ  じゃあ どうして ・・・? ぼくだってわかっただろ 」

「 ええ 勿論。  でも ね わたし ・・・ ぴんぽん には出ないことに

 しているの。 」

「 ええ??  なんで?? 」

「 なんででも。 そう決めているの。 」

「 ・・・ あの 迷惑 だった?  ぼくが・・・ 

「 そんなんじゃないわ!  」

「 用心のため? そ そんなに物騒なのかい!? 」

「 そんなんじゃないってば ・・・ あそこは本当にのんびりしてていいところよ 」

「 じゃあ  どうして? 」

「 さあ?  あ〜〜〜 いい気持ちねぇ 〜〜〜 空気が美味しいわ。

 こんなこと この国に来て初めて知ったの。 故郷ではず〜っとアパルトマン暮らし

 だったし ・・・・ 

側にひょんひょん伸びている草を摘むと 彼女は目の高さで揺らしている。

「 ・・・ そう なんだ 」

「 あ 今もね〜 アパート暮らしなんだけど ・・・ 一歩お外に出れば

 緑がいっぱいでしょう? 海もあるしこっち側は山になってるし ・・・

 わたし 本当にここが ― この町が好きだわ 」

「 え ・・・ いずれは東京に住みたいんじゃないのかい 

「 トウキョウ?  いいえ 都会暮らしは もういいわ。

 わたしには ― この土地が合っているみたい。 」

「 そっか〜〜 うん、 ぼくも大好きさ。

 そっか〜〜〜 この国での暮らし、 気に入ったんだね 」

「 そうね・・・ 二ホンは暮らし易いわ、ゴハンもオイシイし・・・

 この地域の人々は穏やかで優しいわ。 」

「 そうだね〜〜 ぼく達を すんなり受け入れてくれたもんな 」

「 そうよ。 わたし ・・・ できればずっと ・・・ ここで暮らしたい な 

「 そ そうだよね!! ね! 」

ジョーは思わず向き直り 彼女を見つめた。

「 ま ・・・ 将来 ( さき ) のことはどうなるかわかんないけど・・・

 あ ・・・ ねえ 今度 ウチに < 帰って > もいい? 

「 あ? ああ もちろん!!  あ このまま 帰る? その・・・ウチへ 

どきん♪  嬉しくてジョーの人工心臓が 大きく跳ね上がった。

「 う〜〜ん 今日は  いいわ。

 でももうちょっと ・・・ 一緒に居てもいい? 」

「 あったりまえだよ〜〜う  ねえ 少し散歩しないかい 」

「 そうね〜 気持ちのいい夕方ですもんね 

「 うん あ〜〜 もうちょっとで月が上ってくるはずだよ 

「 え まだ夕方よ? 」

「 うん 明るいうちだからね〜 白い月が見える。 」

「 まあ そうなの?  ふうん ・・・ なんかロマンチックねえ 

「 ろまんちっく??  へえ〜 女子はそう思うのかぁ 

「 あら 男の子は なんて思うの? 」

「 え・・・ う〜〜ん   あ!  < 腹減った > 

「 まあ〜〜 」

二人は声を上げて笑った。

「 こっちの道 行ってみる? 」

「 あ〜 そうだね〜 ずっと海に沿っているから月も見えるな 」

「 うふふ ・・・ ジョーと散歩なんて久しぶりね 」

「 ウン ・・・ 」

寄り添って歩けば ― 手と 手が 伸びて 自然に二人は手を繋いだ。

相変わらず誰も通らない道を歩いてゆく。

 

  ひゅるん ・・・ 陽も傾き風も少し冷たくなってきた。

 

「 あ ・・・ みて? 」

「 うん?  ああ 月  ・・・ 」

フランソワーズの指す空には 半透明の白っぽい月が浮かんでいた。

「 あの時は ・・・青い月が見えたね。 箱根の帰りだったっけ・・・・

 今度 またドライブに行こうよ 」

「 ・・・・ 」

フランソワーズは足を止めると 黙って真っ直ぐにジョーを見つめた。

「 なんだい 」

「 わたし。 ずっと見てきたわ。 ずっと 

「 ??? な なにを 」

「 ジョー。  あなたを。  あなたの闘いを   あなたの 生き方 を 

 そして 散ってゆこうとしたあなたを   ―  生き返ってくる アナタ を  

「 フラン ・・・  」

 

大きな瞳に涙が盛り上がってきた。  彼女はわざと拭わなかった・・・

 

 

Last updated : 11,01,2016.               back     /    index    /   next

 

 

*********   途中ですが

え〜〜  ジョー君  そりゃマズイよ〜〜〜★

原作ジョー君って 結構 ・・・ ですよねえ・・・

平ジョーは 天然・・・?  続きます〜〜〜